死後事務委任契約で依頼出来ること
死後事務委任契約で委任者(依頼する人)が受任者(依頼を受ける人)に依頼出来る手続きは主に以下の8種類となります。
- 遺体の引き取り
- 葬儀や納骨・永代供養などの手続き
- 親族や知人への連絡
- 家賃や介護費用・医療費などの精算
- 行政の手続き
- 部屋などの清掃や家財の処分
- Webサービスやデジタルデータの解約・処分
- ペットの引き継ぎ先の指定
以下に一つずつ解説します。
・遺体の引き取り
死後事務委任契約では、遺体の引き取りを受任者に依頼出来ます。
一般的に、遺体を引き取って葬儀の準備を進めるのは親族の役目です。
しかし、親族と疎遠な方の場合、親族が見つからなかったり、遺体の引き取りを拒否されたりするケースがあります。
総務省の調査によると、2018年4月1日から2021年10月31日の間で10万人以上が「引取者のない死亡人」として報告されています。
遺体の引き取り先が見つからない場合は無縁仏となり、自治体が遺体を引き取って火葬を行います。
火葬後は納骨堂などで合葬されるのが一般的な流れです。
また、遺体の引取人がいない場合、賃貸物件の貸主や管理会社などの関係者にかかる負担は非常に大きく、高齢者の孤独死や無縁仏は社会問題化しています。
死後事務委任契約なら、受任者を遺体の引取人として指定しておけるので、無縁仏となって周囲に迷惑をかける心配はありません。
・葬儀や納骨・永代供養などの手続き
葬儀場を手配し、火葬許可申請書の提出を行います。
その他、納骨や永代供養などの葬礼に関する取り決めなど、葬儀関連について細かく指定することが可能です。
・親族や知人への連絡
亡くなったことを親族や知人に連絡します。
SNSなどでの告知を依頼することも可能です。
・家賃や介護費用・医療費などの精算
亡くなるまでに発生した諸費用の精算を行い、家族や親族に請求や滞納の連絡が行くことのないよう手配します。
民法899条では、「各共同相続人は、その相続分に応じて被相続人の権利義務を承継する。」と定められており、家賃や介護費用、医療費などの支払い義務(債務)も、相続人(親族)が相続します。
出典:e-GOV|民法
この支払い義務がきっかけとなり、相続人の間でトラブルが生じる可能性は否定できません。
トラブルを避けるためにも、支払先や支払額を整理した上で、死後事務委任契約を締結し、受任者に精算を依頼しておきましょう。
・行政の手続き
死後事務委任契約は行政上の手続きも受任者に依頼できます。
例えば、健康保険・年金の資格喪失届など、死後にはたくさんの行政上の手続きを行わなければなりません。
あらかじめ死後事務委任契約で受任者に依頼しておくことで、そういった行政上の死後手続きをスムーズに進められます。
・部屋などの清掃や家財の処分
居住していた部屋や施設の清掃を行ったり、家財の処分や売却などの手配を行ったりして、亡くなった後の遺品整理をします。
ただし、家具や家電など一部の財産は資産価値が高く、相続の対象になります。
死後事務委任契約で遺品整理を頼まれた受任者が相続人の断りなく処分してしまうとトラブルが発生してしまいます。
死後事務委任契約で遺品整理を委任する場合、どこまで処分するかについても契約締結時に決めておきましょう。
・Webサービスの解約やデジタルデータの処分
見落とされがちなWebサービスの解約やデジタルデータの処分といった手続きも死後事務委任契約で依頼出来ます。
こうしたWebサービスの解約やデジタルデータの処分は複雑なものも多く、特にデジタル関係に不慣れな親族にこうした手続きをお願いすると、トラブルになりかねません。
例えば、有料のWebサービスの解約手続きが滞ると、利用料を延々と請求され続けてしまいます。
また、秘密にしておきたかったデータを処分しきれずに他の親族に発見されてしまったり、ネット銀行や証券口座、QRコード決済の残高を見落としてしまったりするリスクもあります。
死後事務委任契約でデジタル関係の解約手続きを依頼しておくことで、上記のような問題を避けられます。
依頼する際は、死後事務委任契約の受任者が解約手続きやデータの削除をスムーズに進められるように、アカウントIDやパスワードといった解約に必要な情報を漏れなく伝えておくようにしましょう。
また、Facebookのように、委任状や葬式のしおりなどの提出を求められるWebサービスもあります。
死後事務委任契約を締結する前に、Webサービスごとの解約方法を必ず確認しておきましょう。
・ペットの引き継ぎ先の指定
ペットを飼っている場合、死後に残されたペットの引き継ぎ先を決めておく必要があります。
死後事務委任契約はペットの引き継ぎ先を指定出来るので、次の飼い主になって欲しい方や団体へ事前に相談し、了承を得た上で受任者に依頼しておきましょう。
死後事務委任契約で依頼出来ないこと
ここからは、死後事務委任契約で受任者に依頼出来ないことについて解説します。
・財産に関する手続き(相続手続き)
財産に関する手続き(相続手続き)は死後事務委任契約では依頼出来ません。
相続分や相続人の指定といった、財産に関する希望を実現させたい場合は「遺言書」を残します。
法定相続人はこの遺言書に基づいて相続手続きを行います。
遺言書がない場合でも、財産は法定相続人らが遺産分割協議の決定に基づいて相続手続きを行います。
財産に関する手続きは基本的には財産を相続することになった相続人が行うことなので、死後事務委任契約では依頼出来ません。
尚、ここでいう財産には、被相続人名義の銀行口座や不動産も含まれます。
よって、銀行口座の解約手続き(預金の払い戻し)や不動産の売却手続きも死後事務として依頼出来ません。
・生前に発生する手続き
死後事務委任契約で依頼出来るのは、死後に発生する手続きに限られます。
例えば、生前の見守りや生活の補助、介護、財産管理は死後事務委任契約で依頼出来ません。
生前の財産管理や、生活環境を整えるための事務手続き(身上監護)を依頼したい場合は、任意後見制度の利用を検討するのが良いでしょう。
死後事務委任契約と遺言執行者・任意後見制度の違い
死後事務委任契約における受任者と、遺言執行者や任意後見人は似て非なるものです。
最後に死後事務委任契約の受任者と遺言執行者、任意後見人の違いについて解説します。
・遺言執行との違い
死後事務委任契約と同様、亡くなった人のために行うものとして、遺言執行がありますが、決定的に違う点があります。
遺言とは、財産の承継についての希望です。
遺言執行は本人の意思に従った財産の承継を行います。
そのため、財産の承継以外の手続きは行えません。
一方で死後事務委任契約は、飼っているペットの引き継ぎ先や、葬儀・埋葬の方法など、財産の承継以外のことを依頼出来ます。
遺言執行と死後事務契約は、それぞれ可能なことと不可能なことがあります。
死後のことをしっかりしておきたい場合は、公正証書で遺言を作成し、死後事務委任契約を結んでおくと確実です。
・任意後見契約との違い
任意後見契約は、将来判断能力が不十分になった場合に備えて、元気なうちに身上監護や財産管理などを信頼できる人に依頼するための制度です。
契約を締結した時点では効力は発生しませんが、判断能力に不安が生じた段階で任意後見監督人選任の申立を行うことで、任意後見契約の効力が発生します。
また、任意後見契約は委任契約の一種で、契約を結ぶためには公正証書を作成しなければなりません。
一般的な財産管理委任に関する契約と同様、任意後見契約は生前に効力のあるもので、当事者の一方が死亡すると契約も終了します。
そのため、任意後見契約では葬儀や埋葬など死後の事務は委任できません。
死後の事務について依頼したい場合は、死後事務委任契約を締結する必要があります。
死後事務委任契約を締結する上で大切なのは、死後事務委任契約で出来ること・出来ないことの区別をしっかりと理解することです。
次回は、死後事務委任契約を検討すべき人の特徴を解説します。
当事業所でも、この業務を行なっております。ご心配の方は、当社にご相談ください。